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ようこそ、ほのぼの農園へ:いのちが湧き出る自然農の畑
松尾靖子 著

ようこそ、ほのぼの農園へ
福岡県糸島市に、全国から見学者が絶えない自然農の畑があった

農家に生まれ育ち、「将来、絶対農業だけはしたくない」と思っていた著者が、聴覚障害を抱えながら自分の道を模索する中で出会ったのは「耕さない」「農薬・化学肥料を使わない」「草や虫を敵としない」を三原則とする自然農でした。20年前、まだ自然農を知る人すらほとんどいない中で常時60種以上の野菜を育て、持ち前の明るさでたくさんのお客さんとつながりながら自然農による営農を成功させた著者。そのあたたかい人柄と自然への愛情に満ちたまなざしをとおして見えてくる自然農の世界は、お客さんや研修生のみならず、読み手までをも幸せな気持ちにしてくれます。

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本体1300円+税/四六判並製 224頁/2014年発刊
ISBN978-4-88503-231-8

杉田かおるさん推薦
「子供の頃から不安に思っていた原発が事故を起こして九州に避難していた私にとって松尾靖子さんの笑顔は一条の光でした。この本の中には、ほのぼの農園の学びの場で、幸せになる種を蒔いてくれた靖子さんの思いがいっぱいつまっています。」

書籍紹介(小社雑誌「じねん36.5°【地号】」掲載)
 松尾さんのことは以前から知っていたが、近く接したのは赴任先の福岡で、米作りのため糸島市の「松尾ほのぼの農園」に通った2年間だった。その純粋で誠実な人柄に触れるたび、大したもんだなぁと感じ入っていたが、人格者とか有徳とかいった硬い言葉がまるで似合わない、ダジャレ好きの陽気な女性でもあった。そんな深みと軽み、素朴さと繊細さ、強さと柔らかさを併せ持ったところが、誰からも愛された松尾さんの持ち味だったように思う。  本書は、そんな松尾さんの初の単著である。
 近年、自然農への関心は急速に高まっている。耕さない、必要以上に草を取らない、農薬や化学肥料を使わない。今ある農業の真反対を行く農のあり方が人々の心を捉えているのは、安全な食への希求や、便利さだけを追求してきた生活の問い直し、あるいは自然とじかに触れ合うことへの渇望があるのだろう。関連書の出版も相次ぎ、それぞれ版を重ねている。  しかし本書は自然農を扱ったこれまでのどの本とも違う。
まず、松尾さんは日本で自然農による営農の道を開拓し、20年以上続けてきた先駆者だった。自然農で食べていくため、松尾さんはお客さんとのつながりや地域のつきあいに独自の作法を編んだ。営農で自立した実践例は、自然農の可能性を大きく広げたと思う。
 周りはほとんど意識していなかったと思うが、松尾さんは聴覚障害者だった。農家に生まれ、農業が大嫌いだった彼女は、やがて自然農と出会って確かな生き方をつかむ。本書は一人の耳の不自由な女性が、悩み惑いながら自分の人生を切り拓いていく物語でもある。
 そして本書最大の特徴は、松尾さんの歩みをつづった各章の間に、農業一筋に生きてきた父親の語りを差し挟んだ点にある。牛馬で耕す有畜農業から機械を使った化学肥料農業、有機農業を経て、やがて娘が始めた自然農へ。既成の農業に携わってきたお百姓さんが自然農に転じた例は珍しい。それだけに博多弁で繰り出される言葉には重みと説得力があり、そこには戦前から現在に至る地域の農業史が映し出されてもいる。
 後半、農園に通って自然農を学ぶ研修生と松尾さんとの座談の様子を盛り込んでいる。父から受け継ぎ、自らも蓄えてきた知恵と経験を次の世代に伝えようとする松尾さんの真摯な姿がそこにある。
 著者のことを過去形で書いてきた。本書の出版を控えた2012年5月28日、松尾さんは乳がんのため急死したからである。57歳だった。最も亡くなってはいけない人が亡くなった。松尾さんを知る人はみんなそんなふうに感じたはずだ。
 しかし人の命は「こうしたからこうなる」という因果を超えたところにあると思う。かといって、健康への配慮や養生が無意味だとは思わない。矛盾しているようだが、その矛盾が両立するところに、いのちの世界の不思議があるのだろう。
 松尾さんがいつくしみ育てた自然農園は、かつてそこで研修生として学び、地元で自然農を営む3軒が引き継いだ。松尾さんの志はその農園で生きている。この本の中でも松尾さんはひたむきに生きている。
 (片岡義博=取材・構成)

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本体1300円+税/四六判並製 224頁/2014年発刊
ISBN978-4-88503-231-8

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